「伯爵の後継者を監視せよ――」
昭和5年。
大衆文化が花開く一方で、華族たちのあらゆる醜聞が世間をさわがせていた時代。不良華族の素行を監視・調査する機関が宮内省に存在した。
藤巻虎弥太(ふじまきこやた)は、表向きはやんごとなき方々御用達の料亭給仕だが、裏の顔は宮内省宗秩寮(くないしょうそうしつりょう)幹部・御園尾(みそのお)男爵の密偵だ。
華族のスキャンダルのもみ消しや、厄介事の肩代わりが日常だが、御園尾に命じられ、石蕗(つわぶき)伯爵家にもぐりこみ、若き次期当主・春衝(はるひら)を調べることになる。春衝は、政治にも商売にも興味がなく、清や明王朝の品々や美食を愛でることが趣味の、変わり者だった。
監視が続く中、春衝が手に入れた西太后の遺品といわれる「鼻煙壺」が、虎弥太と春衝たちを血なまぐさい事件に巻き込んでいく。
不良華族の連続猟奇殺人事件、鼻煙壺を追う「亡霊」たち、大陸で落命した若き子爵の死の理由……
謎と謎が絡み合い、真実は春の宵にまぎれていく――。
帝都・昭和ロマンサスペンス!