恋と放射能のはざまで
福島に住む僧侶作家が7年を経て放つ書下ろし長篇小説。
震災で両親を失った若き秋内圭(きよし)は、葬儀をしてくれた禅桂和尚の発する柔らかく澄んだ「気」にうたれ、「風に吹かれるように」出家して禅道場で3年間の修行をつむ。僧名が宗圭となった彼には学生時代から3人の仲間がいて、そのうちの一人、千香には思いを寄せ続けている。福島県の竹林寺の住職にという要請は受けたものの、そこは放射線量も高く、過疎地での寺の運営も困難が予測された。
千香への言い尽くせない恋の悩みや頼りない寺の経済的内実を抱えたまま、禅の公案と格闘しながら、なんとか前に進もうとする27歳の青年と若き仲間たちを描いた成長小説。
また本書は、直木賞作家道尾秀介氏の傑作ミステリー『ソロモンの犬』に登場する人々のその後の物語にもなっている。
●著者の言葉
この作品は、私が道尾秀介さんの『ソロモンの犬』と出逢ったことも含め、東日本大震災があのとき起こったことや、他にもさまざまな「意味のある偶然」に支えられて出来上がった気がする。実際に物語を運ぶうえでも、実人生と同じく「風に吹かれて流されるように」変化し膨らんだ面も多かった。(「風に吹かれて――『あとがき』に代えて」から)