『漢方小説』から14年。
新たな舞台は病院のカフェ。
人々にそっと寄り添う空間で、
醸し出される温かさが通奏低音ように流れる傑作。
総合病院のロビーにあるカフェ。
「ここのコーヒーはカラダにいい」と繰り返す男や
白衣のコートを着る医師は常連客だ。
土日だけこの店でアルバイトをする主婦の亮子は、
鳴かず飛ばずだけれど小説も書いている。
自然酵母のパン職人の夫との間には子どもができない。
子どもは望むけれど、がむしゃらに治療する気にはなれない。
不妊は病気なんだろうか。
実家の親の面倒で他人の世話をし続ける朝子は、
介護人生に疲れ切っている。
ついに夫の孝昭も難病に見舞われた。
不満も満足も口にしないでわだかまりをかかえた中年夫婦。
「院内カフェ」に集う、
人生の困難が否応なくおしよせる、
ふた組の中年夫婦のこころと身体と病をえがく長編小説。
【文庫版解説より】
病院のカフェは優しい。
病人やわたしのような年に一回の患者、
見舞い客もやってきて
「お互い大変ですね」といった会話はなくとも、
知らない相手を自然と労るような空気が流れている。
(中江有里)