1955〜56年、日ソ国交正常化交渉の最前線に立った「日本側全権」松本俊一が、詳細なメモをもとに「発端」から「共同宣言成立」まで交渉の知られざる舞台裏を明かす。歯舞、色丹、国後、択捉の北方四島返還問題や抑留者引き揚げ問題ほか、ときあたかも「保守合同」という国内政治の激動期であったことから、松本ら交渉団は思いがけない国内勢力の「横やり」に苦しめられ、交渉は何度も暗礁に乗り上げる。なかでも、「二島返還で折り合うのならば、沖縄をアメリカの領土とし、日本に返還しない」と米国国防長官が迫ったとされる、いわゆる「ダレスの恫喝」は東西冷戦下における国際関係の実態が色濃く投影され圧巻。日ソ国交正常化に心血を注いだ時の首相・鳩山一郎、それを支えた河野一郎、三木武吉、日ソ交渉に慎重だった吉田茂、重光葵ら当時の政治家たちの本音と思惑が浮き彫りにされる。巻末の附属資料の一つ、グロムイコ第一外務次官と松本俊一全権(著者)との往復書簡は今日でも日本が「北方領土問題は未解決」と四島返還を主張する論拠となっており資料的価値もきわめて高い。このほか「条約案・口上書」などの公電、両国首脳(ブルガーニン‐鳩山一郎)の書簡などは本文と参照しながら読むと、より交渉の内実が伝わってくる。1966年の名著『モスクワにかける虹』の復刊。佐藤優氏による大型書き下ろし解説付き。