医学の進歩だけでは患者の老・病・死の苦しみは救えない。病は古今東西の詩歌によって表現され、病人にも医療者にもより深く伝わり、心をささえていく。ロングセラー『「痴呆老人」は何を見ているか』の著者が、終末期医療でみた人生の真実を詩歌と結ぶ好エッセイ32篇。在宅訪問では、認知高齢者の横に坐ってその肩に触る。ノヴァーリスが歌ったように、触ることには不思議な力がある。認知症の老人をやさしく賢くみつめる高校生の短歌。食のことに限らず、排便のコントロールは一大問題で、萩原朔太郎もしかるべき排便の仕方にこだわった。脊椎カリエスの正岡子規、麻酔科医で歌人の外須美夫、生命科学者の柳澤桂子の詩歌からは痛みとは何かと思いをはせる。旧い仲間や身近な人を喪失したときにしみこんでくる中原中也、茨木のり子の詩。ほかに釈迦、良寛、一茶、神谷美恵子、江國滋、石牟礼道子など多数。