文豪・志賀直哉は稀代の映画好きだった。日本に初めて入ってきた「エジソンが発明した活動写真」から小津安二郎、石原裕次郎の映画まで、数千本の映画を見たことを日記に記している志賀は、生涯を通して映画に熱狂し続けた珍しい文学者であったにもかかわらず、映画好きということすら知られていない。
著者は、日記を中心に、新聞、雑誌などの記述を丹念に辿ることで、「映画狂」志賀直哉という新たな側面に光を当てる。日本全国を転居しながら、あるときは一人で、あるときは友人と、あるときは家族で……。あらゆるジャンルの映画を好み、見たい映画には仕事を抜け出しても駆けつけ、好きな映画は何度も見て、一日に何軒も映画館をはしごした志賀。本書ではそんな、映画という文章化できない芸術をこよなく愛した志賀直哉という新たな面をあらわにする。
映画の揺籃期から日本の映画産業が衰退する1960年代半ばまでの映画史を、文学者の視点から邦画・洋画を横断して描くという画期的試み。