鉄道を敷設するため日本人が行ったさまざまな活動は日本の近代の諸制度を確立し、日本人の鉄道への「信仰」をつくりあげていった。線路が敷かれ、列車が使われたのは、株への投資や票の獲得、あるいは寺社参詣など、鉄道と関係のない動機によることが多かった。だが結果として鉄道に対する信仰が強まり、人びとは線路を建設したそもそもの理由を忘れ、鉄道が役立つから敷いたのだと思い込むようになった。
新政府と資本家、政治家と有権者、天皇と国民それぞれの鉄道を巡る行動から近代日本における重要な3つの柱である、資本主義、民主主義、ナショナリズムの形成を見る。この3つが奇妙な具合に組み合わさり、鉄道を社会に定着させた歴史を具体的事例とともに解き明かし、鉄道というインフラが社会的単位として根を張っていく過程を分析する。