岐阜県・神岡鉱山の地下にある研究施設スーパーカミオカンデで観測を続けた梶田隆章さんが、2015年のノーベル物理学賞に輝いた。日本人(日本出身者を含む)では、前年の青色発光ダイオードの発明による受賞に次ぐ。
5万トンの超純水を張った巨大な水槽スーパーカミオカンデを使い、電子ニュートリノとミューニュートリノの数が理論値と大きく異なることから、物質を構成する素粒子ニュートリノが「振動」する現象を発見、これまで重さがないとされてきたニュートリノが質量をもつことを実証した。宇宙はどうやってできたのか、物質はなぜあるのか。この世界の根源にせまる物理学者たちの探究に大きな一歩を印した。神岡鉱山の巨大水槽を使った研究は、宇宙ニュートリノの検出で同物理学賞を受賞(2002年)した小柴昌俊さんに始まり、故戸塚洋二さんを経て梶田さんにつながる。次代にはスーパーカミオカンデの10倍の水でニュートリノのCP対称性や陽子崩壊を観測するはハイパーカミオカンデや、重力波を観測する「かぐら」の計画もある。
本書では、朝日新聞社主催の記念イベントなどで語った梶田さん自身の言葉によって、これまでの研究や人生を振り返りつつ、取材を続けてきた朝日新聞科学医療部記者が、生い立ちや歩み、発見に至る物語をやさしく説明している。
さらに最終章では、日本人ノーベル賞ラッシュの陰で梶田さんが危惧している、日本の科学研究の現状と将来について解説する。科学技術基本法が1995年に成立し、科学関係の予算が増加している一方、若手科学者の期限付きポストが大幅に増え、息の長い研究よりも短期で成果の出る研究が数多くなされている。将来の生活への不安から大学院進学者も減っている。どうやって若手研究者を確保し安定した研究生活を保障するのか、日本の科学は岐路に立っているといえるだろう。