テロリストを判定するAI。人気アイドルのフェイクポルノ動画を自動生成するAI。「いいね」のデータからユーザーの性格的な特徴を判別するAI。さらには、あなたが将来、犯罪をおかす可能性を予言するAI。夫婦の会話を盗み聞きするAI。そして、暴走する自動運転車のAI――。
日常の風景を、時に不気味なものへと変化させる「AIの事件簿」を、次々と目にするようになってきた。新卒採用の書類審査をAIに委ねる「AI選考」はすでにソフトバンクやサッポロビールが導入。検討中の企業も10%にのぼる。神奈川県警は犯罪予測を行うAIを、東京五輪の2020年までに試験導入することを表明し、セコムや綜合警備保障(アルソック)もAI搭載の警備ロボット普及に乗り出す。防衛省もAI利用の検討を始めている。
世界的にAI社会をリードするのは、グーグルやアマゾンなどのITの巨大企業だ。その強力で安価なAIサービスが、国防システムや犯罪対策にも利用されている。検索履歴、購買履歴、「いいね」の履歴。さらにはスマートスピーカーとの会話のやりとり。それらのデータをIT巨大企業が支配し、AIによって、人々のプライバシーがむき出しにされていく。
2016年の米大統領選をめぐる「ケンブリッジ・アナリティカ」疑惑では、AIの判定が、民主主義の手続きにまで入り込んでしまった可能性も指摘される。現実社会の中に、AIはどのように浸透しているのか。グーグルやアマゾンのサービスの裏側で、AIのやっていることは何か。我々はどこまでAIに判断を委ねるのか。
SFの未来ではなく、すでに噴出し始めているAIをめぐるリアルな事件簿から、AI社会に開いた「落とし穴」の実像をさぐる。