「ガルシア=マルケスがついに書けなかった
コロンビア・ゲリラの実情とその背景に迫る
渾身のルポルタージュ」
――木村榮一(神戸市外国語大学名誉教授)
コロンビアの歴史は暴力の繰り返しであった。
絶え間ない武力抗争の結果、激しい内戦状態に陥り、中でも、左翼ゲリラ・FARCは勢力を伸長。国土の3分の1を支配し、多数の犠牲者を出した。しかし、サントス大統領の主導で和平交渉が進み、2016年9月に合意が締結された。だが、そのわずか6日後に国民投票で否決された。その後、合意内容を改め議会で承認されたものの、和平は道半ばの状態だ。内戦の傷跡は深く、コロンビア社会に長い影を落としている。
FARCの兵士には女性や農村出身者が多い。背景には貧困、政治の腐敗などがある。格差が分断を呼び、国家の分裂を招くのは、ラテンアメリカに限らず、現代世界に通底する問題といえる。けれども、コロンビアでは、和平合意を契機として、社会の不平等の是正、分断を解決する気運も高まった。
コロンビアで起きていることは、現実と虚構の境界が見えなくなり、つじつまの合わないことが起こる、『百年の孤独』(ガルシア=マルケス)――――“熱狂と幻滅”をくり返す魔術的世界――が実際のものになったと言える。
だが、現実は小説のように、消え去る運命にはない。暴力の連鎖から抜け出し、平和を希求する人々の行動が、国を変えようとしている。コロンビアの人々が辿った長い道のりから、わたしたちが学べるものとは何か。現地リポートを中心に、朝日新聞記者が深層に迫る。
<目次>
序章
第1章 密林の中のゲリラ
FARCの本拠地へ
重装備の戦闘員
農民のゲリラ
野営地の暮らし
ずん胴鍋のコーヒー
週2回の「文化の日」
麻薬、身代金を資金源に
日本人も被害
最高司令官ロンドニョ
第2章 戦闘員たちの素顔
ゲリラの中の女性たち
パラミリターレスの出現
暴力の連鎖
少年少女の戦闘員たち
「生まれ変わってもゲリラに」
知識層や外国人も
生まれてくる子、「私が育てる」
親子の再会
戦闘員たちの夢は
戦争の異常性
第3章 魅惑と危険の国
誘拐やテロよりも
コーヒー、エメラルド、カーネーション
陽気なコロンビア人
麻薬カルテルとパブロ・エスコバル
反政府ゲリラと内戦の長期化
第4章 和平合意
長い戦いに終止符
「恐ろしい暴力の夜は終わった」
和平交渉、繰り返された失敗
和平が最善で一致
サントスの暗殺計画も
内戦状態から平和へ、和平合意の理念
国民による選択
第5章 国民投票
立ちこめた暗雲
ゲリラの優遇に反発
前大統領が反対運動
和平合意の否決、「FARCに原因」
「被害者の声を置き去り」
突きつけられた教訓
「平和を望む」、広がる声
第6章 被害者たち
悲劇の村
「平和のために」
怒りと悲しみを越えて
激戦の町、10人に1人が被害
奪われた命、戻らぬ幸せ
なお癒えぬ傷
第7章 ノーベル平和賞
差し込んだ新たな光
和平実現を後押し
驚きの連続、『百年の孤独』のよう
和平交渉にかじを切ったエリート政治家
政府とFARC、修正案に合意
新合意を承認、反対派は反発
「和平合意は希望の光」
胸に染みたメッセージ
第8章 武装解除
一変した戦闘員の生活
テレビやスマートフォンも
ベビーブーム
様々な戦闘員たち
農民たちと共に
「普通のコロンビア人に」
建設中の「町」
社会復帰の壁
武力闘争の歴史に幕
26年ぶりの再会
第9章 和平は道半ば
「戦争は対話で解決できる」
赤いバラを手に
つまずいた政治参加
合意見直し派が大統領に
和平の行方に懸念も
揺れ動く国内情勢
あとがき