刀槍を用いず策と舌を駆使して、人を動かす男の「正義」「人情」「虚無」を描き、戦国外交の熾烈な舞台裏を描く意欲作
甲斐・武田晴信(信玄)に仕える「槍も取らず、舌先で戦う男」計策師・向山又七郎の名は諸国に轟いていた。晴信に命じられて調略・交渉・謀略…外交にまつわるすべてを請け負い、時には主君すら欺く。元来春風駘蕩、飄々として捉えどころのない美男の剣の達人だが、荒涼とした戦場において使い捨ての駒であると自嘲するうちに、いつしか又七郎の心も荒んでいた。
半ば捨て鉢な生き方で、虚言すらも弄して人を欺く一流の計策師となった又七郎だが、かつてある事件で妻子を失っていたのだった。そして安曇野の平瀬城に降伏勧告で単身乗り込んだ又七郎は、平瀬義兼の娘・薫姫とも友の契りを交わし、城兵たちの助命を嘆願するも、晴信は冷酷に断を下す。より深い虚無を感じる又七郎。
計策師として主君の敵を滅ぼしてきた又七郎が、暇乞いと引き換えに晴信から下された最後の仕事が、武田が戦国の世を生き抜くための「甲駿相三国同盟」の締結という巨大な外交課題であった。足を引っ張る武田の家臣たち、次々と現れる諸国のくせもの軍師・計策師たち。利害・打算・謀略に翻弄されつつ、又七郎は同盟を実現できるのか!?