◯老年精神医学の第一人者による、生活の視点からみた実践的に役立つ臨床の覚書。
老いゆく心をわかっているのだろうか? 精神科医として大学病院や精神科病院で高齢者を診てきた著者は、1979年に認知症をより知りたく老人医療・福祉の現場に入った。高齢者はそれまでは自らの精神的危機を乗り越えてきたのに、加齢とともに伴侶や友人を喪失、独居や同居という住宅環境、身体的機能の低下、孤独、社会とのつながりの変化から、不安、葛藤、怒りに苛まれる。腰痛や風邪、人間関係の小さなトラブルをきっかけに、妄想や不安障害、うつ病を患っていく。豊富な臨床例、多田富雄、木村敏、神谷美恵子、ボーヴォワール、映画『八月の鯨』、ジャンケレヴィッチ、ボウルビィ等をもとに、老年期の心理的特性を捉える。病の多彩な症状の底流にある「老いを生きること」の実相とは? 大上段の構えではない、老いの自然な姿、成熟とは? そして100歳老人の愉快な奔放人生も追う。
◯ 帯には推薦文
もっと早くにこの本があったなら。母を介護した日々を思う。そして今わたしが「老い」の中へ。ひとつとして同じものはない老いを拓き照らす本である。
――落合恵子
老いを生きる人の心身は知られていない。生活の場からみた豊富な臨床例と分析は、医療・介護関係者、家族・友人、また老いゆく人にも必読だ。
――都立松沢病院院長・精神科医 齋藤正彦
◯目次から
はじめに
第1章 老年精神科事始め
第2章 老年期心性の特異性と不安・抑うつ
鏡に映る自分に愕然とする/死の現前化/喪失体験/老いの孤独/老年期の適応という課題
第3章 抑うつの精神医学
60、70代のうつ病/80、90代のうつ病/定年退職後のうつ病/孫の子守でうつ病になる/超高齢者と抗うつ薬/うつ病と認知症の鑑別/高齢者のうつ病治療
第4章 老年期の妄想
盗られ妄想/嫉妬妄想/隣の物音――嫌がらせという迫害妄想
第5章 隠喩としての「認知症」
どんなことが「認知症」といわれているか/「ごみ屋敷」は個性的である
第6章 脳症状の臨床からみる1
せん妄 せん妄とは何か/夕方症状群
第7章 脳症状の臨床からみる2
生活を通して認知症を考える 「認知症」の多様性
第8章 老いをいかに生きるか――ある100歳老人から