かつて中学1年の時に僕は、酒を飲む度に荒れる父親に手を焼き、遂に斧で殴りかかって殺そうとしたことがある──心に傷を負ったまま家族とも離れ、悪夢のような記憶とともに生きていく史也。荒んだ生活の中で、看護師の梓との出会いから、徐々に自身の過去に向き合おうとする──これは「決別」と「再生」の物語。
父へ、母へ、
この憎しみが消える日は来るのだろうか。
酒を飲んでは暴れ、家族に暴力をふるう父に対して僕には明確な殺意がある。
十三歳で刑罰に問われないことは知ってはいるが、僕が父を殺せば、もう母とも妹とも暮らすことはできないだろう。それがわかっていても僕は父を殺そうとしている。自分のなかに黒い炎を噴き出す龍が住んでいる。いつそれが自分のなかから生まれたのかわからない。龍は僕に命令した。今だ、と。 (本文より)