小学生の15人に1人が「家族の世話」を担い、社会問題として顕在化してきたヤングケアラー。メディアでは身体的な疾患や障害をもつ家族の介護をする子どもがクローズアップされることが多いが、実際には、精神疾患の母親をケアするケースも多い。
介護や家事労働だけが「ケア」ではないのだ。
長期脳死の兄の「身代わり」として親の前で頑張って見せる子、母親の薬物依存を周りに言えない子、ろう者の母親の手話通訳をするうちに「私」が消えていく子、母親を責めるようだからと自身をヤングケアラーだと認めたがらない子――。
本書では、家族をケアする子どもたちが体験する孤立を「語り」から考える。彼ら彼女らの言葉に丁寧に耳を傾け、ディテールにこだわって分析を重ねていく。すると、これまでほとんど知られることのなかった、ヤングケアラーたちの複雑かつあいまいな体験や想い、問題の本質が浮かび上がってくる。また、そこから、どのような「居場所」や支援を必要としているのかも見えてくる。
【本書の目次】
序章 「ヤングケアラー」への問いと出会う――“心配する”子どもたち
第1章 兄の身代わりで空っぽになる自分
――長期脳死の兄と麻衣さん
第2章 言えないし言わない、頼れないし頼らない
――覚醒剤依存の母親とAさん
第3章 気づけなかった罪悪感と「やって当たり前」のケア
――くも膜下出血の母親とけいたさん
第4章 通訳すると消える“私”
――ろう者の母親とコーダのEさん
第5章 理不尽さと愛情
――覚醒剤依存の母親とショウタさん
第6章 母親の所有物
――うつ病の母親とサクラさん
第7章 学校に行かせてくれた「居場所」
――失踪した母親、残された弟と無戸籍の大谷さん
第8章 “記号”が照らす子ども、“記号”から逃れる子ども
終章 孤立から抜け出すためのサポート
【著者略歴】
村上靖彦(むらかみ・やすひこ)
1970年東京都生まれ。大阪大学人間科学研究科教授・感染症総合教育研究拠点(CiDER)兼任教員。2000年、パリ第7大学で博士号取得(基礎精神病理学・精神分析学)。13年、第10回日本学術振興会賞。専門は現象学。著書に『母親の孤独から回復する 虐待のグループワーク実践に学ぶ』(講談社選書メチエ)、『在宅無限大 訪問看護師がみた生と死』(医学書院)、『子どもたちがつくる町 大阪・西成の子育て支援』(世界思想社)、『交わらないリズム 出会いとすれ違いの現象学』(青土社)、『ケアとは何か 看護・福祉で大事なこと』(中公新書)など多数。