酒造りは経験と勘がものを言う世界だ。しかし大学を出たばかりの若者たちが、その道何十年という熟練の杜氏(とうじ)をも唸らせる日本酒を造ってしまう事件が起きた。だがそれは、単なる偶然でも、まぐれ当たりでもなかった。
孤立無援の中で業界の常識を打ち破り、新風を吹かせたその酒「廣戸川(ひろとがわ)」と「一歩己(いぶき)」の若き造り手は、「一升瓶を開栓し、飲みごろのピークを4日目に持ってくる」「もう一杯飲んでみようと思わせるように、味にわずかな苦みを含ませている」と、己の酒造り哲学を自信を持って語る。
どうして彼らは、全国に名を馳せる日本酒に肩を並べる、全国新酒鑑評会でも金賞を連発する酒を造れたのだろうか? その背景には、一昔前だったら考えられなかった、うまい酒を広めようとする酒販店のアドバイスと協力、新参者にもバイオテクノロジーを応用した酒造りを教える教育体制、そして何よりも競い合いながら高みを目指すライバルの存在があった。
経験や勘ではなく、バイオテクノロジーの力を借り、数値化できるものは数値化させ、酒販店の意見を参考にしながら消費者の嗜好や市場分析を行ない、最後は悪戦苦闘しながらど根性で活路を拓いていく日本酒の若き造り手たち。日本を代表する名酒を誕生させた蔵人たちの青春群像に迫る。新ものづくり王国・ニッポンの到来を実感させる元気が出るノンフィクション。