現代人が失いつつある〈ケアの倫理〉は、世界の文学に読みとれる。
『ケアの倫理とエンパワメント』で政治、社会、医療、介護の分野からも
注目される英米文学者の〈ケアの倫理〉にかんする画期的な問いかけ。
自立を迫る新自由主義的風潮のもと、ケア思想をたどり、韓国、欧米、日本などの文学作品とつなげて読み込む。
マン・ブッカー国際賞受賞作家の韓国のハン・ガンが描く『菜食主義者』、光州事件をあつかった『少年が来る』。欲望や怒り、憎悪などの暴力に振り回されながらも、どのようにその世界から抜け出せるのか。
ブッカー賞受賞作家、カナダのアトウッドがSF的想像力で生み出した『侍女の物語』と『誓願』でのサバイバルとは? このディストピア小説の舞台である「ギレアデ」共和国は不可視の世界で、キリスト教原理主義と家父長制が支配する。そして一人の女性の苦悩が女性たちの連帯(シスターフッド)と結ばれ、「他者」の言葉の力、生存する力がしめされる。
差別により死にいたらしめられる者とその過酷さを知らぬ者、老いを経験する者と年若い者、病に臥す者と健康な体を持つ者、はたしてこのような差異を乗り越えて他者の傷つきや死を、私たちは凝視できるだろうか。
死者へのケアをテーマにした、トニ・モリソン『ビラヴド』、平野啓一郎『ある男』、石牟礼道子『苦海浄土』、ドリス・レッシング『よき隣人の日記』をもとに、他者への想像力を働かせることがどのようにケア実践につながるのかを考える。
冷たい墓碑や硬い土に埋葬されている死者。かつては生命力に満ちていた身体と内面世界が、作品のなかで豊かな言葉によって回復されている。
〇目次
今こそ〈ケアの倫理〉について考える――序論にかえて
第一章 現代人が失いつつあるものとしての〈ケア〉
第二章 弱者の視点から見る――暴力と共生の物語
第三章 SF的想像力が生み出すサバイバルの物語
第四章「有害な男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)」に抗する文学を読む
第五章 死者(ビラヴド)の魂に思いを馳せる――想像力のいつくしみ
口をつぐむこと、弱くあることについて――あとがきにかえて