日本の北方に、ロシアの「核要塞」が広がっている――。
人知れず極東で進められているロシアの核戦略を、超人気軍事研究家がロシア軍内部資料と衛星画像インテリジェンスから明らかにする。
さらにウクライナ戦争と極東ロシア軍との関わり、日本のあるべき対ロ安全保障政策についても解説。
<目次>
はじめに 地政学の時代におけるオホーツク海
要塞の城壁にて――P−3Cのいる空/逆さ地図の今昔/「聖域」としてのオホーツク海/地政学の逆襲/本書の構成とアプローチ/本書を読む上での基礎知識/「普通の潜水艦」と原子力潜水艦─SSBN、SSGN、SSN/核戦力の背骨としてのSSBN/ロシア軍の構成と兵力
第1章 オホーツク海はいかにして核の聖域となったか
スターリン兵学をめぐって─日ソ陸上国境の消滅/終わり、そして続き/消耗戦略論と破壊戦略論/「軍事革命」とフルシチョフ政権期の核戦略論/冷戦下のソ連海軍─進まない海軍力の強化/SSBNの登場/米本土を狙え/667A型の配備と飛躍的に伸びる核攻撃能力/宿敵・SOSUS/新冷戦の悪夢─ゲーム・チェンジャーとしての667B型/氷の鎧の悪夢/RYaN作戦/デッド・ハンド/絶頂期に達するSSBN艦隊─冷戦期最後のSSBN:667BDR型/怪物の咆哮/二つの聖域/水中のスパイたち/地理と音から見る聖域─聖域の広さと深さ/気象の重要性/潜水艦長たちの苦闘/SOSUS対「ツェントル19」
第2章 要塞の城壁
要塞の外堀─引き籠もり戦略/オケアン70演習/1974年という画期/日本メディアを賑わすソ連艦/海峡をこじ開ける/広がるソ連海軍の活動範囲─「オキナーワ、ナガサーキ!」 /第17作戦戦隊/パンツを何枚持って行くか/ソ連海軍のインド洋展開をめぐる謎/内堀としての千島列島─内堀の三つの機能/手薄だった内堀/北方領土へのソ連軍再配備/シムシル島:カルデラに建設された秘密潜水艦基地/静かなる「キロ」/要塞の眼・耳・神経─極東におけるレーダー覆域/ソ連版SOSUS/超長波通信システム/米海軍の目に映った要塞─ミラー・イメージ/要塞なんてあるのか?/要塞論争の決着/変化する日米の防衛戦略/A2/ADか能動防御か
第3章 崩壊の瀬戸際で
夢の終わり─放棄される日本海の聖域/「金も、名誉も、将来もない」街/崩れゆく城壁/原潜解体という難問/艦隊を支えるパトロンたち/困った時の神頼み/冷戦後のロシアと核抑止─核兵器依存の強まり/ドゥーギンの「縮小版超大国」論/ココーシンの聖域整理構想/核戦力をめぐる軍内部の暗闘/存亡の危機に立つオホーツク海の聖域?セルゲーエフ=クワシニン論争の終わり/聖域を救った(?)プーチン/核軍縮で高まるSSBNの役割/難航、955型/老いゆく原潜艦隊
第4章 要塞の眺望
復活─再び、海へ/大演習から読むロシアの極東戦争シナリオ/英雄たちの到来/太平洋艦隊SSBN部隊の将来像/掘り直される外堀/内堀をめぐる動き/カムチャッカに秘密工作潜水艦部隊が?/衛星画像で読み解くロシア原潜艦隊─ロシア原潜の根城を宇宙から覗く/「物騒な潜水艦基地」/核の弾薬庫/潜水艦の墓場/原子力潜水艦の活動状況を暴く─衛星画像の読み方/SSBNの行動パターン/訓練か?パトロールか?/カバーし合う(?)二つの艦隊/航行警報と公刊資料が明らかにする太平洋艦隊大演習の実像/ひっそりと行われる核抑止パトロール
第5章 聖域と日本の安全保障
核戦略理論から見た現在のオホーツク要塞─「抑止の信憑性」をめぐる問題/三つのシナリオ/「裏マニュアル」は存在しない/核エスカレーションに関するロシアと米国の「認識」/聖域とウクライナ戦争/要塞の戦い方─揺らぐ「戦闘安定性」/柔らかな背後/オホーツク要塞の城壁とウクライナ戦争/「カリブル化」されるロシア海軍/日本の対ロシア戦略を考える─ロシアは日本のどこを叩くか/「感じの悪い未来図」/対露抑止力をどう構築するか
おわりに─縮小版過去を生きるロシア
桜の園/アバチャ湾と東京湾/競合的共存
あとがき あるいは書くという行為について