パンダと生きとし生けるものとアヒルのおもちゃ。
すべてをやわらかく繊細にくるむ、小説の秘術――大森望
ここには、“命をあずかる”という
ケア責任の普遍性がそっと提示されている――小川公代
(「一冊の本」2024年10月号より)
テロと戦争が常態化する時代の渦中に
命をあずかり平和の実現を企てる組織が存在した――?
あなたを思えば世界は救われる。
【あらすじ】
春先になると花粉症で鼻が利かなくなるモトコは、
副業で働くアルバイト先の同僚・村崎さんから
自宅で飼う小動物たちの世話を頼まれる。
その後、職場を辞めた村崎さんのメールからは、
パンダと人類をめぐる狩猟、飼育、繁殖の歴史がひも解かれ、
ある目的で海外を転々としていることが見えてくるのだった。
モトコが村崎さんの指示を仰ぎながら動物たちの世話をつづけるなか、
上野動物園では日本が所有する最後のパンダ・リンリンが亡くなり、
中国ではオリンピックを前に、加工食品への毒物混入事件と大地震が起きる――。
命をあずかることと奪うこと。
この圧倒的な非対称は、私たちの意識と生活に何を残すのか?
「命をあずかる」というケアの本質に迫りながら、
見えない悪意がもたらす暴力に抗うための、
小さく、ひそやかな営為を届ける問題作。