道具・情報・施設・公的支援……
使わないのはもったいない!
父が脳梗塞で倒れた!
子育て真っ最中でも、親の介護は突然始まる
手を抜けるところは徹底的に手抜きする。使えるものは使い倒す
自身の体験に加え70人以上の取材を通して、介護のリアルと解決策を描く。100万pv超えの人気配信記事が1冊に。
〇介護を楽にする。自分を優先する。
忘れもしない、2019年1月24日(木)の昼過ぎ。「052」で始まる見知らぬ電話番号からスマホに電話がかかってきました。愛知県出身の私は、「052」が名古屋の市外局番であることはわかっていました。
「旦木博雄さんのご家族の方ですか?」
電話に出た途端、相手が父のフルネームを口にしたことに面食らい、続く言葉に血の気が引いたのを今でも覚えています。
父は2019年1月24日(木)の10時頃に外出先で救急搬送され、搬送先の病院で「大きな脳梗塞」を起こしていることが判明。医師は父が持っていた電話帳から母に電話したが繋がらなかったため、2番目にあった私に電話したとのことでした。
当時の私は鎌倉新書さんの『月間仏事(現在は月刊終活』に記事を寄稿する“終活ライター”で、通夜・葬儀、埋葬に関する情報を集めて記事にする仕事をしていました。
約3年間にわたり、“終活”にどっぷり浸かり、さまざまな情報を得、学んできたにもかかわらず、いざ実の父が突然脳梗塞で倒れたことを知った時、動揺する自分に驚きました。
そして、介護というものは突然始まり、否応なく家族を巻き込んでいくという現実を身をもって知ったのです。
当時娘は小学校1年生。実家は名古屋ですが、私は川崎で暮らしています。気軽に帰省して父の面会に行ったり、気落ちした母の側に数日間居続けるのは難しいことでした。
それでも、できるだけ母の支えになろうと、電話がかかってこれば気の済むまで対応しました。直接父の様子を知ることが出来ない分、精神的に落ち着かず、不安な日々を過ごしました。
もちろん、意識がなかなか戻らない父、意識が戻っても半身不随になってしまった父、回復してきたと思った矢先に容態が急変した父…と直接向き合う母や弟に比べれば、私の負担なんて大したものではありません。
しかし、遠距離には遠距離の、小さな子どもを抱える「ダブルケア」には「ダブルケア」の、理解され難い苦悩があることを痛感するには十分な時間でした。
「私のように、親の介護が突然始まって、身体的にも精神的にも疲弊して苦慮する人を少しでも減らすことはできないか?」
そう考えた私は、父の死後、家族を介護する人々の家庭の様子や、家族に介護が必要になっていく過程など、現実をつぶさに記事にして発表するようになりました。
あれから約6年。3月に父の七回忌を終えたところですが、私の介護記事は、現在100事例近くにのぼり、オンラインニュースサイトに掲載されると、10万PVをゆうに超え、時には100万PVを超えることもある人気連載として続いています。読者層は40?60代の男女がメインです。それだけ、働き盛り世代は介護について気にしているという現れでしょう。
これまで介護の取材を行ってきてつくづく思うことは、
介護はもっと楽にしていい
ということ。
それでなくても仕事に子育てにと多忙な生活を送っている働き盛り世代。突然始まる親の介護に、生活ペースを大きく乱され、苦悶するケースが散見されます。
そんな苦悶の一因には、社会に根強く残る「親の介護は子がして当たり前」という考え方が影響していないでしょうか?
中には介護を優先しすぎたために、家族の関係性が悪い方に変わってしまったケースもあります。
「自分の人生は、自分を優先にしていい」
という当たり前のことを声を大にして伝えたい。
そのためにこの本を企画しました。
「介護を楽にする方法」
「自分を優先する方法」
を、詳細な事例や専門家のコメントを真面目ながら、提案・解説しています。
この本を読み終えた後、「意外と介護って大変じゃないのかもしれない」と思えたならしめたもの。
親の介護を控えた働き盛りの皆さんの心を、少しでも軽くするお手伝いができたら幸いです。(「はじめに」より)
旦木瑞穂 たんぎ・みずほ
ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー。愛知県出身。広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターを務め、2015年に独立。葬儀・お墓・介護など終活に関する執筆のほか、ガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作を行う。2023年、『毒母は連鎖する』(光文社新書)を刊行。