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ビジネス
ルポ M&A仲介の罠
藤田 知也 著
ISBN:9784022520692
定価:2090円(税込)
発売日:2025年7月22日
四六判並製  360ページ 

日本経済の救世主か? 稀代の詐欺師か?
今日も中小企業は、喰いものにされる

朝日新聞デジタルの人気連載に大幅加筆、書籍化!
老後の人生設計が暗転。まやかしの事業承継。減り続ける資産。
――知らないと危なすぎるM&A(合併と買収)、そのトラブルの全貌

〇会社を救うはずだったのに。あなたの会社は大丈夫?
100万円で売り買いされる会社/9千万円余りが数カ月で流出/「会社を手放す気持ちがわかんねぇのか」/「カネ払え」携帯に無数の着信/M&A倒産で「地獄に突き落とされた」/「善意」が前提の契約手続き/歯切れの悪い業界団体代表/22億円をどぶに捨てた官民ファンド/地域金融機関の責任/机に並べた帯封つきの札束/北新地のキャバクラ利用260万円超/会社とは誰のものか/働く人のために(目次より)

〇実際に起きたトラブルから、問題の所在と原因を探る
私がこの問題に取り組むきっかけは、ルシアンホールディングスという買い手によるトラブルを知ったことだ。設立から短期間のうちに30社ほどの中小企業を買いあさり、資金が行き詰まった2023年末に代表者は失踪した。十数社が事業の停止や倒産といった憂き目に遭っている。
 だが、買い手と売り手をつなぐことで「成功報酬」を受け取るM&A仲介業者は、M&Aによってどんな結果がもたらされようとも、報酬を得たままの「一人勝ち」となる。デタラメなM&Aで中小企業を追い込む買い手に問題があるのは言うまでもないが、悪質な手法を繰り返す買い手を紹介して着実に稼げるビジネスのありように、私は関心を抱いた。
(「はじめに」より)

中小企業に明日はあるのか
 きっかけは、携帯にかかってきた1本の電話だった。
「ちょっと変なトラブルが起きているようで、藤田さんなら興味があるんじゃないかと。ただのトラブルではなく、業界の構造問題が見え隠れするからね」
 相手は金融関連の事件で付き合いのある取材先だった。2024年1月下旬のことだ。
 私の取材は往々にして、こんなふうに始まる。結果的に記事にならないものも少なくないが、なかには徐々に話題になって膨らんでいくものもある。

 名指しされた業界とは、「M&A仲介」を指していた。会社や事業を売り買いする「売り手」と「買い手」を見つけて引き合わせ、取引を成約させることで報酬を稼ぐビジネス。不動産仲介業の「会社・事業版」と言えるだろう。
 大企業のM&Aであれば、大手の証券会社や銀行などが各社のアドバイザーを務め、多額の手数料を稼ぐ。だが、中小企業の売買では取引額が小さいため、大手では商売にしづらい。
 そこで近年、日本で台頭してきたのがM&A仲介業者だ。買い手と売り手の双方から報酬を受け取る「両手取引」により、M&Aの手続きをサポートする。資格も免許も不要で、誰にでもすぐに始められる仲介ビジネスがここ数年で急成長を遂げていたのだ。

 この業界に私も以前から関心を持っていた。そこに寄せられた冒頭の電話は、おかしなM&A取引が繰り返されているようだ、という内容だった。悪質と思われる買い手と、買収先の企業群を教えてもらえたが、具体的な中身は自分で確認するほかない。

 取材は一筋縄ではいかなかった。
最初に当たった事例は、売り手が契約後に会社を手放すのが惜しくなり、白紙撤回後に役員登記を勝手にされるなどの被害に遭ったという内容で、たしかに悪質ではあるが特殊なケースであるように思えた。
 次に当たった事例は、買い手が契約で約束した経営者保証の解除をせず、経営にもほとんど関知せずに事業が停止していた。ただ、買収先と買い手の間の金銭の行き来を追ってみると、買い手は少なくない資金を買収先に援助していて、利益を得た形跡が見当たらなかった。
 これでは買い手側の狙いがわからないうえに、記事にしても読者の共感は得にくいと思えた。

 私は買収先の経営者らに手紙を書いた。被害者の会を立ち上げたという人物らの協力も得つつ、最終的には十数人の売り手から詳しい経緯を教えてもらえた。そうしてようやく、「悪質な買い手」の実像が見えてきた。

 一つひとつのM&Aは、経緯も背景も異なり、仲介した業者もばらばらだ。なかには買い手が損失を被るケースさえあった。それでも、事例を積み上げていくと、買収先が持つ現預金を引っこ抜き、契約で約束した経営者保証を外さない、という点が多くの事例で共通している。ここに彼らの悪質さが凝縮されている。

 とはいえ、買い手の悪質さを立証するだけではまだ足りない。この取材は当初から、悪質な買い手を追及するよりも、そのような買い手を紹介して多額の報酬を稼ぐ仲介ビジネスの実態を明らかにすることに照準を合わせていた。
 およそ3カ月に及ぶ取材は昨年5月、「M&A仲介の罠」と題した連載に仕立て、朝日新聞デジタルで配信した。すると、想定外に大きい反響があった。「同じような買い手がほかにもいる」との情報が次々と寄せられた。そうしてトラブル事例を掘り起こして回るうち、仲介業界が抱える矛盾と非常識な振る舞いが浮かび上がってくる――。

 すこし前までは、M&A仲介を美化した広告が世間にはあふれていた。M&Aを増やせば生産性の向上につながるとして、政府も補助金や税制で後押ししてきた。ニュースメディアが中小M&Aの負の側面に目を向ける機会は少なく、それらも自分の会社をM&A仲介へ無防備にゆだねることに一役買っていたに違いない。
 相次ぐM&Aトラブルを報じた一連のキャンペーンで、局面は変わった。政府は実質的な業界ルールである中小M&Aガイドラインを改訂し、業界団体の自主規制も強化された。資格も免許もいらない無法地帯で急成長を遂げてきたM&A仲介ビジネスは、踊り場に差し掛かっている。

 会社の継続や成長にとって、M&Aが一つの有効な手段であることに揺るぎはないが、中小企業経営者にとって、仲介ビジネスを安心して利用できる環境は整っていない。
 中小企業に明日はあるのか。具体的な事例の数々と業界の対応を検証した拙著を通して、その行方を読者のみなさんに占っていただきたい。
(著者の言葉)

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