書籍
評論
小説、この小さきもの
鴻巣 友季子 著
ISBN:9784022520791
定価:2640円(税込)
発売日:2025年9月19日
四六判上製  376ページ 

私たちは孤独ゆえに小説を生みだし、小説を読み書きするゆえに孤独を深めてきた――。
小説の本質とは何か。私たちはなぜ物語を必要とするのか。「共感性読書」の波が席巻する現在、小説という散文形式の発展、語り手の位相の変遷を読み解きながら、神なき時代の叙事詩である小説の起源を探り、フィクションの本質に迫る本格文芸評論。

目次
 はじめに
第一部 小説、感情、孤独
第一章 詩と小説、色と光
 最も似ていない物真似、最も甚だしい錯覚
 なにが詩で、なにが小説なのか?
 詩人の小説、小説家の詩
 あれもこれも奇妙なふるまい
 小説、この新奇なもの
第二章 小説、この小さきもの
 なぜ「小」説なのか?
 『源氏物語』の現代小説性
 物語と感情史の大革命――アルファベットの登場
 新たな声の誕生――叙事から抒情へ
 世界初のグローバリゼーション――散文と孤独
 大きな物語からの「辞退」――レクサティオ
 隠れた意図と女性視点の欠如
 アルファベットの功罪
第三章 近代化、孤独、小説
 ロンリネスの醸成と感染力
 ひとはいつから「寂しい」と言うようになったのか?
 寂しんぼ時代の到来
 なぜ近現代人はこんなに寂しがりなのか?
 共感はなにに運ばれる?
 大きな物語のなかの孤独
 ロンリネスを逆手にとる
 コラムⅠ 文化盗用
第二部 神から遠く離れて――小説はいかに共感の器となり得たか
第一章 デーモンが世界を散文化する
 叙事詩から小説へ
 「ここに私がいる」
 内面にこそリアルがある
 小説、この成り上がり者
 神が去り、世界は散文化する
第二章 散文、労働、翻訳
 ナポレオンというインスピレーション
 企図と手法の離反
 労働としての散文
 “英語散文の父”ウィクリフ
 翻訳、人間らしさのありか
 汚染としての聖書翻訳
第三章 共感を担う話法
 心と声へのなめらかな誘導
 自由間接話法とは何か?
 社会の脅威とまで言われた話法
第四章 リレータブルという価値
 ラスコーリニコフと友だちになりたいか?
 英語世界を席巻した共感語
 自撮り読書――シンパシーとエンパシー
 誰にも共感できない小説
 苦しみは相対的なものか?
 否定的エウレカ
 コラムⅡ 古典の“浄化”と読み直し
第三部 フィクションと当事者性――“真実”はだれに語り得るか?
第一章 リアリズムから読み解く共感
 詩的な散文のリアルさ
 ゆっくりした散文の幻想性
 大衆文化が押しだしたリアリティ
 リアリズムは個人主義に始まる
 リアリズム小説の優位点――不完全さと共感
 理解、寛容、倫理――シンパシーでたどり着けないもの
第二章 語り手から読み解く当事者性――人称と視点
 「いまでなく、ここでなく、わたしでなく」
 物語の分岐点――語り手の消失
 生得的語り手――予め刻印された存在
 語り手を消す方法その1――擬態と非劇化
 語り手を消す方法その2――後景化と非劇化
 日本語、初めて三人称で書かされる
 語り手がいるとはそういうことだ
 「た」の文体革命――明治の異化翻訳
 二葉亭の方向転換――明治の同化翻訳
 「た」から「る」へ時代に逆行
 語り手を消す方法その3――前景化と劇化
 革新的な語り手ネリー
 語りの人称空間を広げた書簡体小説
 小説、この「まがいもの」
 当事者性は障壁をすり抜ける?
第三章 フィクションでだれになにが書けるか?
 おかしな日本人の表象
 同時代の当事者文学の登場
 健常者優位社会のバリア――想像力の横暴さ
 健常者が障害を書くということ
 自由意思と自己決定権の罠
 コラムⅢ 市民検閲
第四部 個人と多様性、独立と連帯
第一章 咀嚼か窒息か
 死を知ることとフィクション
 近代社会が生みだしたバグ
 緩衝された自己か、多孔的な自己か?
 Perfectか、purposeか?
 ジャムか、サラダか?
第二章 語りにおける回顧と模倣 
 現在形で書くという時流
 強権の放棄、物語化の回避
 現在時制で振り返るということ
 過去形でしか書けないこと
第三章 What Are You Going Through?
 隣の部屋の他者
 Solitude, Loneliness, Isolation――単独性の諸相
 連帯あっての切断
 内的分裂、自己との対話の欠如
 プネウマの連合、共感の粉
 あなたの苦しみはなんですか?
おわりに 小説とロンリネス――独りきりの私のために
 普遍よりも「いま、ここ、私」
 書くことの畏れと安らぎ

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