◆著者より◆
事実を早く広く端的に報じる新聞記事からは、ときにこぼれ落ちてしまうものがあります。でもその中にも、どうしても伝えたい話があります。この本は、それをまとめたものです。
朝日新聞の駐在記者として能登に来てから、たくさんの方に、2年前の元日のことを詳細に聞かせてもらいました。その中で度々、夜の寒さと澄み切った空気、停電で街の明かりがすべて消えたこともあったのだろうと思いますが、場違いに美しい星空のことを耳にしました。
「おとろしいほど、星が見えた」
「冬銀河が嫌みなぐらい、それはもう気持ち悪いぐらいのきれいさだった」
「飲まず食わずで、とにかく寒くて……。空を見上げたら真冬の星空がとてもきれいでした」
大きな余震が続く中、絶望と不安に押しつぶされそうになりながら見上げた星空のことを、多くの人が鮮明に語ってくれました。本書のタイトルには、そういった一つ一つの経験を書き留めて残したいという気持ちが込められています。
能登半島の先端にある50世帯100人の小さなまちの住民たちによる「復興会議」の歩み。地震と豪雨で「二重被災」したまちで再起の道を探るスーパーと、住民による住民のためのラジオ局。震災をきっかけに生まれた交流と未来をつくる拠点――。
能登に来て出会った人たちのこうした5つの物語を通して、ここで生きる人たちのいとなみの尊さが伝えられるといいと思っています。
◆目次◆
第1章 能登半島の先端、100人のまちの作戦会議
第2章 二重被災のまち 唯一のスーパーと新たなラジオ局
第3章 映画「幻の光」の恩返し 届けた1万人の気持ち
第4章 能登の悲劇も、やさしさも 海色の列車の「語り部」
第5章 茅葺き屋根から結んだ内と外 未来を耕せ