自らのアウシュヴィッツ体験を描いた名著『これが人間か』から約40年、記憶の風化を恐れたレーヴィは、改めてその体験を極限まで考え抜き、分析し、苦闘の末に本書をまとめた。だが刊行の1年後、彼は自ら死を選ぶ。
善と悪とに単純に二分できない「灰色の領域」、生還した者が抱える「恥辱」、人間が持つ最も恐ろしい悪魔的側面を描いた「無益な暴力」、アウシュヴィッツが風化することへの恐れを論じた「ステレオタイプ」・・・・・・これらは実際に地獄を体験した者でなければ語れない。
アウシュヴィッツは、生存者のその後の人生にもつきまとった。生き残ったものたちは、生きる喜びを奪われ、いわれのない罪の意識と戦い続けた。生還以来、その体験を証言し続けてきたレーヴィは何を思い、生きたのか? そして、地獄を生き抜いた者が、なぜ自ら死を選んだのか――?
世界中の哲学者、歴史家が、アウシュヴィッツを語るうえで欠かせないとした古典的名著の文庫化。
アウシュヴィッツとは何だったのかを改めて問い直す一冊。
【目次】
序文
1 虐待の記憶
2 灰色の領域
3 恥辱
4 意思の疎通
5 無益な暴力
6 アウシュヴィッツの知識人
7 ステレオタイプ
8 ドイツ人からの手紙
結論
訳注
訳者あとがき
プリーモ・レーヴィ年譜(一九一九―八七)
解説 小川洋子。