書籍
小説
砂に埋もれる犬
桐野 夏生 著
ISBN:9784022517937
定価:2200円(税込)
発売日:2021年10月7日
四六判上製  496ページ 

貧困と虐待の連鎖――。
母親という牢獄から脱け出した少年は、
女たちへの憎悪を加速させた。

ジャンルを超えて文芸界をリードする著者の新たな傑作
予定調和を打ち砕く圧倒的リアリズム!


小学校にも通わせてもらえず、日々の食事もままならない生活を送る優真。
母親の亜紀は刹那的な欲望しか満たそうとせず、同棲相手の男に媚びるばかりだ。
そんな最悪な環境のなか、優真が虐待を受けているのではないかと手を差し伸べるコンビニ店主が現れる――。

ネグレクトによって家族からの愛を受けぬまま思春期を迎えた少年の魂は、どこへ向かうのか。
その乾いた心の在りようを物語に昇華させた傑作長編小説。

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『砂に埋もれる犬』感想まとめ


ブックジャーナリスト 内田 剛さん

なんとやりきれない物語なのだろう。
抑えきれない衝動が新たな罪を生み出し、
愛に飢えた子どもたちの傷は決して癒えることはない。
「静かなる爆弾」を抱え、歪み捻れてしまった少年。
その「巨大な虚」は、いったい何で満たせばいいのか…
正視できないけれどもこの生きづらさこそ紛れもない現実だ。
説明できないむき出しの感情をものの見事に再現したこの小説は、
切れ味鋭いナイフとなって理不尽な社会を突き刺す迫力がある。
希望ある未来のために、読んでおくべき価値ある一冊だ!

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幕張蔦屋書店 後藤 美由紀さん

児童虐待が起こっていることはニュースで目にするが、虐待にあった子どもたちがその先をどう生きていくのかは、あまり耳にすることはない。
描かれている虐待の連鎖、虐待を受けた子供が持つ心の傷、その先の生きづらさ、そして、子供の人格形成に与える影響の大きさは想像以上だった。ラストにほんのかすかではあるが、明かりが見えたことがせめてもの救いだ。

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ジュンク堂書店 吉祥寺店 田村 知世さん

息が詰まる。なぜなら、この「少年」を正しく導く答えを持ち合わせる者などいないからだ。
そして同時に、自分ならば、正解が分かると思う者にはそれが如何に過剰な考えかを思い知る1冊となる。
この感想もどう考えても自分が欺瞞に満ちた人間であることに、突き当たってしまい、何度も書き直している。今もまだ整理しきれないこの感情と向き合い続けて生きていきたい。
「分からない」を誠実に、スタート地点にする為に。

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丸善名古屋本店 竹腰 香里さん

家族からの愛を受けず生きてきた優真。いつも気にかけてくれたコンビニ店主夫婦が里親として優真を迎えてくれた。これで幸せになれるだろうか。優真がどうなってしまうだろうか、ハラハラしながら見守りました。実の親から愛だけでなく常識もままならない優真。
一生懸命、優真に寄り添おうとする里親夫婦。ひしひしと想いが伝わり、切なくなりました。
同級生や里親とうまくいかない優真が、闇の感情を募らせる。その先には…。
衝撃のラストに涙が止まりませんでした。

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有隣堂藤沢店 佐伯 敦子さん

桐野先生!ただすごすぎる。
ネグレクトをここまで書ける作家はいないのでは!!
貧困とは?虐待とは?
あたたかい家庭に迎え入れられても、育ってきた環境と本当の母親から受けた心の傷はそう簡単には癒えないものだと思いました。
思わず引き込まれて、ぐいぐいと最後まで一気に読ませていただきました。

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ジュンク堂書店名古屋栄店 西田 友里さん

渇いている、飢えている、ネグレクトを受けた優真に感情移入し、読んでいる間じゅう渇いていた。
いつ食事が与えられるのかわからない空腹への恐怖、生死を前にして善意なんて簡単に崩れ落ちる。目加田家で毎日三食を食べられるようになっても普通の家庭で育った子供たちと比べて圧倒的に経験値が足りない。
食事マナー季節の行事、学校内や家庭内でのコミュニケーション、価値観や倫理観、そして人を思いやる気持ちも。何もかもが足りていない。取り返しのつかない何かの予感にページをめくる手を止められず、駆け抜けるように読みました。
物語が閉じた後の優真の未来を犯罪者にすることも、真人間にすることも読者の自由だろうが、この世の中が本当の意味で優真を救ってあげられる環境にあるのかを問われているように感じました。
こんなに渇きを覚える読書体験は初めてです。この世界に生まれたすべての子どもたちが幸福で満たされる社会になりますように。

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蔦屋書店熊谷店 加藤 京子さん

迫真の物語は私たちに問いかけます。どうしたら、断ち切れるのか?
愛情が憎悪に勝つことはできないのか?
何もできない自分の非力さがもどかしく、心がヒリヒリしました。
どうか。このような出来事が起きない世の中でありますように。
もう、悲しみの連鎖は要らないから。

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ジュンク堂 郡山店 郡司さん
人間とは思えないような子供への虐待、そして誰も助けてくれない、これが物語の中だけでなく、現実に起きていることかもしれないと思うと、どうにもならない怒りがわいてくる。
生きていく為に必要なこと全て何も教わらず愛情さえ知らずに生きてきた少年の中で何が起きているのか、理解ができないまま大人や女に対する憎しみが大きくなっていくのがとても恐ろしかった。このままでは最悪な結末になってしまうのではないかと絶望的な気分になっていた。
しかし、最後まで見捨てず必死に少年を止めようとしてくれる大人がいた。一緒に本気の涙を流してくれる大人がいた。この人たちだったら少年を救い出してくれる。そんな希望が見えたラストに感動した。

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大垣書店 井上 哲也さん

子供は親を選べない。ネグレクト。物理的に離れても、心の呪縛からは、なかなか逃れる事は出来ない。本当に哀しいことなのだ。

環境が人を作る?自身の努力が足りない?
自分が産まれ落ちて生きて行くことに意味はあるのだろうか。

私は全ての人に善の心があると信じている。優真の明日が明るい日でありますように…。
切なく哀しく涙なくして読めない物語ですが、奥深い匣の底に残された希望を垣間見た気がしました。

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