伊藤若冲が描いた絵に、彼と親交のあった禅僧―梅荘顕常(大典禅師)、高遊外(売茶翁)、無染浄善らは、賛すなわち詩文を着けました。江戸時代の鑑賞者たちは、それら絵と賛をともに楽しんだはずです。
しかし現在、「若冲の作品」として認識・鑑賞されているのはおもに絵で、賛を読み、その内容とあわせて絵を鑑賞することはほとんどないでしょう。現代人にとって、賛のくずし字を正しく読むことは容易ではなく、読めたとしても内容を十分に理解することは困難だからです。
本書は賛を徹底して読み、絵の魅力を改めて考えます。賛を読めば…(1)賛が絵に描かれていないものを示唆し絵の世界を大きく広げていること、(2)賛と絵が一体となって制作者たちの思想や心性を表現していること、(3)当時、共有されていた特定のモチーフの文化的イメージ、などが分かり、画の見方が変わります。
賛を読むこと――それは若冲の画業により深く迫り「若冲の作品」の秘密に出会うことなのです。